事業推進担当者: 安井 正人 (やすい まさと)

事業推進担当者 | 特別研究教員 | RA・特別研究員

安井 正人 (やすい まさと)

慶應義塾大学医学部薬理学教室教授

昭和39年6月28日生
〒160-8582 東京都新宿区信濃町35
TEL:03-5363-3751 FAX:03-3359-8889
E-mail:myasui@sc.itc.keio.ac.jp
URL:http://web.sc.itc.keio.ac.jp/pharm/index-jp.html

略歴

昭和58年3月 慶應義塾高等学校 卒業
平成元年3月 慶應義塾大学 医学部 卒業
平成元年4月 聖路加国際病院 小児科 レジデント
平成3年4月 聖路加国際病院 小児科 チーフレジデント
平成4年4月 東京大学 医科学研究所 客員研究員
平成4年4月 東京女子医科大学 母子総合医療センター 助手
平成5年2月 スウェーデン王国カロリンスカ研究所大学院博士課程入学
平成9年4月 スウェーデン王国カロリンスカ研究所大学院博士課程卒業
平成9年9月 米国ジョンズホプキンス大学 医学部 博士研究員
平成11年4月 米国ジョンズホプキンス大学 医学部 講師
平成13年12月 米国ジョンズホプキンス大学 医学部 助教授
平成16年4月 東京歯科大学 市川角膜センター 客員教授
平成18年3月 慶應義塾大学 医学部 薬理学教室 教授
現在に至る

資格・学位

平成元年5月 医師免許証下附
平成9年 医学博士取得 スウェーデン王国カロリンスカ研究所
平成10年 医学博士取得 慶應義塾大学

主たる研究領域

薬理学、分子細胞生物学、発達生理学

主たる所属学会

日本薬理学会、日本神経科学学会、日本臨床薬理学会、日本小児科学会 等

審査会歴/委員等

平成18年より 文部科学省 大学設置・大学法人審議会専門委員
平成18年より 日本学術会議 日本学術会議連携会員

受賞歴

平成12年 Johns Hopkins Young Investigators Day, A. McGehee Harvey Prize for Post-doctoral research
平成14年 三四会奨励賞(慶應義塾大学医学部)
平成15年 Spa Foundation International Prize, shared with Peter Agre (Brussels)
平成16年 S&R Foundation Award (Washington, D.C.)

COE分担課題

脳血液関門における低分子代謝物挙動の解明
水代謝及び水分子動態の理解と病態解析への応用

これまでの研究の概要

我々の体の約3分の2は水分子で構成されており、水分調節はヒトにおける最も重要な生命維持機能の一つです。実際、涙液・唾液としての分泌や消化管、腎臓における再吸収など、体内の水は、動的かつ巧妙に調節されています。また、脳浮腫や肺水腫などの重篤な病態から高齢化社会において問題となっている老年期dry syndromeに至るまで、その臨床的重要性は枚挙に暇がありません。水分子を選択的に通過させる膜チャネル蛋白 -アクアポリン(AQP)- の発見は、水分調節,分泌・吸収に対する我々の理解を急速に深めることとなりました。現在までに哺乳類では13種類のAQPが確認されています(AQP0-AQP12)。様々な疾患やその病態生理とAQPの関連も徐々に明らかになりつつあります。例えば、AQP0と白内障、AQP2と尿崩症、AQP3と乾燥肌、AQP4と脳浮腫、AQP5と口腔内乾燥症、AQP7と肥満・糖尿病などが挙げられます。我々は特に創薬には欠かせないAQP活性調節機序に焦点を絞ってその理解を深めてきました。水銀は一般的にAQPに対する阻害作用があることが知られていました。我々は、AQPに対する水銀の作用に関していくつかのユニークな発見を積み重ねてきました。例えば、AQP6が水銀によって抑制でなく活性化されることを見つけました。さらに、活性化されたAQP6は例外的に陰イオンを通すことを発見しました。そして、パッチクランプ法による単一チャンル解析を用いることで、初めてAQP6のゲーティングを証明しました。更に何故AQP6が例外的にイオン透過性を有するか、その構造機能相関の一端を解き明かすことができました。また、AQP4は従来水銀による影響を受けないと考えられていましたが、我々は測定方法を工夫することで、他のAQPとは異なった機序でAQP4が水銀で抑制されることを確認しました。AQP4は脳浮腫の病態に関与しているのみならず、躁うつ病などの感情障害との関連も示唆されています。また、一部の多発性硬化症亜系患者の自己抗体に対する抗原としてAQP4が同定されるなど、創薬の標的としても大変注目すべきAQPです。AQP研究の利点として、膜蛋白であるにもかかわらず、その結晶構造が高分解能で解明されたことが挙げられます。AQPの原子モデルが提唱されたことで、AQPの水分子選択的透過性がかなり詳細に理解されるようになってきました。更に分子動力学計算(MD)の導入により、水分子がポアの中を通過する様子もシミュレーションできるようになっています。我々も既にMDを導入したAQP機能活性調節のシミュレーションを開始しています。

研究活動と研究室紹介

我々の研究室では、様々なバックグランドをもつ研究スタッフが独自のチームを形成しています。お互いの独自性を保ちつつ、かつ密なコミュニケーションを図ることで全体として非常に柔軟かつダイナミックな研究環境が創り上げられています。それぞれの利点を活かしながら、我々の共通の目標、すなわち「複雑系としての生命現象のより深い理解に基づく医学への貢献」を目指し、日々研究を進めております。


アクアポリンおよび「水分子の生命科学」チーム:従来、水分子は存在して当たりまえという前提のもと、生命現象に対する研究が進められることがほとんどでした。我々は、水分子そのものにフォーカスを焦て、水分子のナノ動態から生命現象を捉えなおすという立場で研究しています。複雑な生命現象、その特徴ともいえる非線形開放系における自己組織化現象に水分子がどのように関与しているか、コンピューターによる水分子シミュレーションと非線形光学を駆使した水分子可視化の両面からアプローチしていきたいと考えています。
1)脳のアクアポリン
脳には主にAQP4が発現しています。AQP4は、様々な脳の損傷や疾患に伴う脳浮腫の病態と深く関連しています。しかしながら、AQP4の生理的役割に関しては、まだ謎が多いです。最近、AQP4と感情障害やNMOなどとの関連を示す報告が出てきました。また、これまで謎であった全身性ガス麻酔の作用に脳のAQP4が関与している可能性も考えられます。高次脳機能の更なる理解へ向けて、そして、精神疾患・脳疾患の創薬のターゲットとして、脳におけるアクアポリンを中心にその解析を進めています。
2)アクアポリンの構造機能相関
アクアポリンの結晶構造が解明されたことで、水分子がいかにしてアクアポリンのポアを選択的に通過するか、その理解が深まりつつあります。我々は、従来の分子生物学的及び生化学的手法に加え、分子動力学計算、量子化学計算を用いることで、更に詳細な解析を進めています。

組織再構築チーム:
私たちの体は100種類以上の細胞が約60兆個集まって形成されています。これら膨大な数の細胞は各々に特徴的な能力を有していますが、単独で存在していてもその能力を発揮することはできません。細胞は細胞表面接着分子、細胞外マトリックスの足場となる、内因性、外因性の液性因子を介して高次にコミュニケーションすることによって生体機能の一翼を担う複雑かつ巧妙な組織構造を形成していきます(自己組織化)。この自己組織化現象はin vitroの培養細胞でも観察されます。例えば粘膜上皮細胞は単独で存在していても上皮組織としての機能は発現していません。しかし、培養条件を適切に設定することによって上皮細胞は密に結合してシート状になり、tight junctionによるバリア機能、トランスポーターやチャネル分子による物質選択的透過性、線毛運動能や粘液分泌能を示します。培養条件を調えて未機能な細胞集団に機能を発揮させることを組織再構築とよび、生体における自己組織化の再現といえます。また、隣接した組織に由来する細胞と共培養を行うことによって生体の組織間相互作用を再現した複雑系の組織再構築をおこなうことも可能です。これらの再構築した組織は、生体現象の解明、生体機能、創傷治癒モデルなどに使用可能であり、また動物実験の代替物、あるいはヒト細胞を用いて治験モデルとして活用することができるため、様々な分野への応用が期待されます。
1)羊水調節機構の解明
羊膜は羊水を介して発生中の胎児に接する最内側の組織である。胎児は臍帯だけではなく羊水からも発生に必要な成分を吸収し、なおかつ排出物も羊水中に排出されます。当研究チームでは機能的な再構築羊膜の開発に成功しており、現在は羊膜モデルを用いて物質移動のメカニズムについての詳細な研究を行っています。
2)血液脳関門モデルの構築および調節機構の解明
血液脳関門は脳毛細血管から脳内への物質移動を調節する機構であり、様々な病因によって血液脳関門の機能は変化し、多くの疾患・病態に影響を与えている事が分っていいます。当研究チームではこれらの疾患や病態に対する効果的な解決を目的として検索対象物に応じた血液脳関門モデルを作製し、その制御機構の解明を行っています。

非線形光学・神経チーム:
私達の脳機能の解明は現代科学に残された大きな課題であり、また現代医療にとっても最も重要な課題の一つと言えます。1011個とも言われる神経細胞が織り成す複雑なネットーワークにより構成される複雑系としての脳の高次機能は、それを構成する個々の神経細胞の情報処理機能に支えられています。しかしこれら神経細胞の情報処理機構の詳細はその多くが謎に包まれています。その原因の最も大きなものの1つとして、生理的に重要な役割を担うシナプス等の神経細胞細部での電位測定手段の欠如が挙げられます。そこで私達は、神経細胞細部における電位活動測定の手段を確立し、それを応用して神経細胞での情報処理の謎に迫る事を目指しています。私達のグループでは最新の光学的手法に電気生理学、生化学など多岐に渡る手法を組み合わせて研究しています。中でも、近年その膜電位を含
めた細胞膜環境変化の可視化の可能性が示されてきた新規の2光子イメージング法、Second Harmonic Generation (SHG) イメージングを積極的に用いています。
1)SHGによる樹状突起での膜電位測定
神経活動に伴う樹状突起及びスパインでの電位変化はその多くが謎に包まれています。そこで私達のグループではSHGを電気生理学的手法と併用する事により、生理学的な刺激がどのような電位変化となって神経細胞で情報処理されているのかについて研究しています。
2)樹状突起における電位依存性チャネルの動態
樹状突起における電位情報処理は様々な電位依存性チャネルにより支えられています。そして、これらのチャネルのダイナミックな動態は正常・疾患条件下の神経細胞に多大な影響を与えていると考えられます。そこで私達は様々な条件下におけるこれらのチャネルの動態を生化学的手法などを用いる事により分子レベルで解析しています。

理論化学シミュレーションチーム:
私たちはタンパク質をはじめとする生体高分子の働きにより生命を維持しています。生体高分子の正常な状態、異常な状態の違いを知ることは、薬理学的な見地から生命現象を理解する上でとても重要です。新薬を開発するためには、タンパク質と薬の相互作用を解明することがとても重要となります。タンパク質の正常状態、異常状態、そしてタンパク質と薬の結合状態は、結晶解析により分子・原子レベルで少しずつ明らかとなってきています。現在分かっているタンパク質の立体構造は、Protein Data Bank(PDB)に登録されています。しかし結晶構造は静的な情報で、実際の生体内の状態を反映しているとは限りません。タンパク質の機能を解明するためには動的な情報も必要です。タンパク質の動的な情報を分子・原子・電子レベルで知る方法として分子動力学(MD)シミュレーションや量子化学計算などのコンピュータ・シミュレーションがあります。MDシミュレーションは、取り扱う対象が分子・原子単位であるため、生化学的実験のみでは得ることの難しい生体高分子の構造ダイナミクスを分子・原子レベルで解明できると期待しています。また、量子化学計算を行うことで原子・電子レベルでのタンパク質の制御機構を研究しています。
1) MDを用いたアクアポリンの分子制御機構の解明
MDシミュレーションを用いて、アクアポリンの水分子透過制御機構、リン酸化などの修飾による水分子透過性への影響、ガス分子透過制御機構の解明などを行っています。
2)量子化学計算を用いたアクアポリンのプロトン排除機構の解明
MDシミュレーションの結果から量子化学計算のモデルを構築し、アクアポリンのプロトン排除機構について、電子レベルでの理解を目指しています。

研究業績

1)Yasumasa Sasaki, Jitesh D Kawedia, Anil G Menon, Masato Yasui, Kazuo Tsubota. The Difference of Aquaporin 5 Distribution in Acinar and Ductal Cells. Curr. Eye Res. 32(11), 923-929, 2007
2)Yukutake, Y., Tsuji, S. , Hirano, Y., Adachi, T. , Takahashi, T, Fujihara, K., Agre, P., Yasui, M.., Suematsu, M. Mercury Chloride Decreases the Water Permeability of Aaquaporin-4.Reconstituted Proteoliposomes. Submitted to J. Biol. Chem.
3)Nagase H, Agren J, Saito A, Liu K, Agre P, Hazama A, Yasui M. Molecular cloning and characterization of mouse aquaporin-6.
Biochem. Biophys. Res. Commun. 352, 12-16,2007
4)Beitz E, Liu K, Ikeda M, Guggino WB, Agre P, Yasui M. Aquaporin-6--determinants of membrane trafficking in mammalian cells. Biol. Cell 98, 101-109,2006
5)Ishikawa Y, Zhenfang Y, Inoue N, Nakae Y, Shono M, Yasui M, Skowronski M T, Nielsen S, Agre P. Identification of aquaporin-5 in lipid rafts and its translocation to apical membranes by the activation of M3-muscarinic acetylcholine receptors in the interlobular ducts of rat parotid glands. Am. J. Physiol. 289, C1303-C1311,2005
6)Liu K, Kozono D, Kato Y, Agre P, Hazama A, Yasui M. Conversion of aquaporin-6 from an anion channel to a water-selective channel by a single amino acid substitution. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 2192-2197,2005
7)Beitz E, Pavlovic-Djuranovic S, Yasui M, Agre P, Schultz JE. Dissecting water and glycerol permeability of PfAQP, the aquaglyceroporin from Plasmodium falciparum. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 1153-1158,2004
8)Ikeda M, Beitz E, Kozono D, Guggino WB, Agre P, Yasui M. Characterization of aquaporin-6 as a nitrate channel in mammalian cells: Requirement of pore-lining residue threonine-63. J. Biol. Chem. 277, 39873-39879,2002
9)Hazama A, Kozono D, Guggino WB, Agre P, Yasui M. Ion permeation of AQP6 water channel protein . single-channel recordings after Hg2+ activation. J. Biol. Chem. 277, 29224-29230,2002
10)Kozono D, Yasui M, King LS, Agre P. Aquaporin Water Channels: Atomic Structure and Molecular Dynamics meet Clinical Medicine. J. Clin. Invest. 109, 1395-1399,2002
11)Promeneur D, Kwon T-H, Yasui M, Frokier J, Knepper MA, Agre P, Nielsen S. Dynamic Regulation of AQP6 expression in intercalated cells of rat kidney in response to altered acid/alkali load or water load. Am. J. Physiol. 279, F1014-F1026, 2000
12)Francis P, Chung J-J, Yasui M, Berry V, Moore A, Wyatt MK, Wistow G, Bhattacharya S, Agre P. Functional impairment of lens aquaporin in two families with dominantly inherited cataracts. Hum. Mol. Gene.t 9 (15), 2329-2334 ,2000
13)Yasui M, Hazama A, Kwon T-H, Nielsen S, Guggino WB, Agre P. Rapid gating and anion permeability of an intracellular aquaporin. Nature 402, 184-187,1999
14)Yasui M, Kwon T-H, Knepper M. A, Nielsen S, Agre P. Aquaporin-6: An intracellular vesicle water channel protein in renal epithelia. Proc. Natl. Acad. Sci .USA 96, 5808-5813, 1999
15)Nishimoto G, Zelenina M, Li D, Yasui M, Aperia A, Nielsen S, Nairn AC, Arginine vasopressin stimulates phosphorylation of aquaporin-2 in rat renal tissue. Am. J. Physiol. 276, F254-F259, 1999
16)Yasui M, Serlachius E, Lofgren M, Belusa R, Nielsen S, Aperia A. Perinatal changes in expression of aquaporin-4 and other water and ion transporters in rat lung. J. Physiol. (London) 505, 3-11, 1997
17)Yasui M, Zelenin Z, Celsi G, Aperia A. Adenylate cyclase-coupled vasopressin receptor activates AQP2 promoter via a dual effect on CRE and AP1 elements. Am. J. Physiol .272, F443-F450, 1997
18)Yasui M, Marples D, Belusa R, Eklof A-C, Celsi G, Nielsen S, Aperia A. Development of urinary concentrating capacity: Role of aquaporin-2 (AQP2). Am. J. Physiol .271, F461-F468, 1996

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